コラム

「学校の先生って、世界で一番大変な仕事かもしれない」ネット企業の担当が10年現場に通って直面した、授業の“余白”とネット社会の伝え方

2026年06月22日

対象:教育関係者向け
教材:GIGAワークブック


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資料が積み上がった机を前に、他にもやることがたくさんあり忙しい先生のイメージ画像

学校で、ネットのことをどう教えるのか。

この問いは、スマートフォンやSNSの使い方を注意するだけでは、もう収まりきらないものになっています。生成AIの登場も含め、子どもたちを取り巻く情報環境は、日々ものすごい速さで変わっています。

一方で、その変化を受け止め、子どもたちに向き合う学校現場には、限られた時間しかありません。必要性は誰もが感じている。けれど、授業として扱うには、準備する時間も、選ぶための判断材料も、十分とは言えない。

では、ネットサービスを社会に届けてきた企業は、学校現場に対して何ができるのか。先生方の負担を増やすのではなく、子どもたちの学びと安全につながる形で、どのように力になれるのか。

この10年、学校現場で情報モラル教育を支える中で見えてきたのは、教材そのもの以上に、授業に向き合うための“余白”をどう生み出すかという課題でした。

本稿では、その現実と、外部企業としてできるサポートのあり方について考えます。

01
学校の先生は、世の中で一番大変な職業かもしれない
02
優秀な教材はたくさんある。でも「授業の余白」がない現実
03
「これだけやれば大丈夫」が通用しない、現場のリアル
04
私たち外部の企業ができる「2つのサポート」
05
「ダメ」と教えるだけでは意味がない。最大の鍵は「自分ごと化」
06
先生の「余白」を生み出す、「感覚的に近しい教え方の型」の授業
07
先生方の「探す・選ぶ・準備する」を支えるサポート導線
08
AI時代の到来。さらに高まる「情報モラル」の重要性

01. 学校の先生は、世の中で一番大変な職業かもしれない

「学校の先生って、もしかしたら世の中のどの仕事よりも大変な職業なのではないか?」

私が今の職務に就いて、学校現場の先生方と関わるようになった頃、最初に抱いた率直な感想です。学校の外からでは見えにくいかもしれませんが、日々の子どもたちへの指導に加え、山積みの業務、そして絶え間なく変化する教育環境……そのご苦労は、私の想像をはるかに超えるものでした。

私は現在、インターネットを推進する企業に勤めながら、CSR(企業の社会的責任)活動の一環として、子どもたちのための「情報リテラシー教育(情報モラルを含む)」を推進する役割を担って、およそ10年になります。

これからの社会を作っていく子どもたちにとって、インターネットは切り離せないツールです。しかし、上手に活用するスキルを身につける以前に、まずはネットに潜むトラブルをどう回避し、予防するか。このテーマの優先順位がどうしても高くなります。そこで、子どもたちの学びの場である学校現場と連携し、サポートさせていただくことが、私たち企業にとっても最もスマートで意味のある選択だと考えました。

02. 優秀な教材はたくさんある。でも「授業の余白」がない現実

忙しすぎで余裕がないことを記した先生のイメージ画像

学校現場に足を運び続ける中で、先生方が直面している「ある難しさ」に気づきました。

先生の何が大変かと言えば、まず第一に「忙しすぎて余裕がない」ということに尽きます。1年を通して、朝から夕方までびっしりと基本のスケジュールが組まれ、日々のイレギュラーな出来事への対応、行事やイベント、子どもたちへの個別対応で息をつく暇もありません。当然、翌日の準備も必要です。

そんなギリギリの状況の中で、「さて、特定の授業科目として組み込まれていない『情報モラル』は、一体どこで、どうやって教えればいいの?」という話になります。

教材自体は、文部科学省、総務省、消費者庁などの各省庁が提供しているものから、民間企業のものまで、検索すれば国内だけでも多くの優れた無償教材を見つけることができます。でも、問題はそこではありません。数ある中から今のクラスに適切な教材を選び、自らインプットして理解を深め、限られた時間の中で授業の準備をする……。

「世の中に優秀な教材はたくさんある。
でも、今の多忙な先生方に、これを実際に授業で『使えますか?』『できますか?』」

教材という「道具」は揃っていても、それを使いこなすための「時間」、そして授業における「余白」が、今の学校現場には圧倒的に不足しているのです。

03. 「これだけやれば大丈夫」が通用しない、現場のリアル

先生とと生徒がスマホをみながら情報モラルに括られるSNSなどのサービスについて考えている画像

さらに、情報モラルの指導をより一層難しくさせているのが、「これだけ押さえておけば大丈夫」という単純な問題ではない点です。

子どもたちの学年や、その時々に押さえておくべきテーマは、極端に言えばクラス単位でも違ったりします。他の教科のように、1年間を通して計画的にステップを踏むようなことはまだまだ難しく、単発的な取り組みになってしまうのが実情です。

それに加えて、世の中のネット事件や、学校内でSNSトラブルが起きてしまえば、事態は急を要します。つまり、先生方が扱いたい、あるいは扱わざるを得ないテーマは、その時々の状況に応じた「非常にピンポイントな課題」であることが圧倒的に多いのです。

04. 私たち外部の企業ができる「2つのサポート」

こうした過酷な現状を前に、私たち外部の企業に何ができるのか。そのアプローチは、大きく分けて2つあると考えています。

一つ目は、自治体(教育委員会)との連携です。現場の先生個人の努力に委ねるのではなく、地域全体で目標を掲げて取り組む「組織的なバックアップ体制の構築」です。
「やらなければ」という意識はあっても現場に余裕がない場合、教育委員会がリードして方針を打ち出すことで、学校や先生方が情報モラルに向き合うための「時間の確保」に直接つながります。また、先生方向けの研修などの取り組みも、自治体と一体となって動くことでスムーズに進むことが多いのです。

そして二つ目が、日々の授業という観点において私たちが最も注力している、「いかに先生にとって“扱いやすい”教材をご用意できるか」ということです。
ただ、楽に教えられるよう簡略化すればいいわけではありません。ここには、情報モラルという教科特有の難しさがあります。

05. 「ダメ」と教えるだけでは意味がない。最大の鍵は「自分ごと化」

それは、「明確な答えがないものがほとんど」だという事実です。

例えば、SNSの誹謗中傷や、動画視聴・SNS閲覧などの長時間利用。これらが「悪いこと」であることなど、実は子どもたち自身も頭では分かっています。分かっている子どもたちに、大人がただ「ダメなものはダメ!」と禁止しても、ほとんど意味がありません。

求められているのは、「どうすれば子どもたち一人ひとりが心から納得できるか」。言い換えれば、いかにその問題を「自分ごと化」させるかということです。

06. 先生の「余白」を生み出す、「感覚的に近しい教え方の型」の授業

メッセージをどう終わらせる?と記載された教材の画像

この「自分ごと化」を促しながら、先生の準備負担を最低限にし、授業に“余白”をもたらすにはどうすればいいか。私たちが静岡大学の塩田真吾先生と連携し、10年間の教材開発の中でたどり着いた答えが、「一度体験すれば、別のテーマでも『なるべく同じ教え方の型』あるいは『感覚的に近しい教え方の型』で展開できる教材」を用意することでした。

では、その「型」とは具体的にどのようなものか。それは、子どもたち同士が自ら意見を出し合い、一緒に考える「グループワークを中心としたもの」に行き着きました。

大人が一方的に正解を教えるのではなく、「自分だったらどうする?」「なぜそれをやってしまうのか?」という問いに対し、子どもたち自身で話し合って考えを深めていく。このグループワークの指導の「型」を、まずは一度、先生に体感していただきます。

すると、次に全く別のピンポイントな問題が起きたとしても、先生は「あ、あの時のやり方で今回はこのテーマを扱えばいいんだな」と感覚的に近しい型に沿って授業ができるため、ゼロから授業案を組み立てる必要がなくなります。手にしたその日から、すぐに使える教材へと変わるのです。

07. 先生方の「探す・選ぶ・準備する」を支えるサポート導線

コンテンツ逆引きツール(参考)

コンテンツ逆引きツールの画面。学年や身につけさせたい情報モラル、スキルを選択することで教材の検索ができることがわかる画像

教材の共同開発者である静岡大学の塩田先生は、「情報活用能力は、言語能力などと同様にこれからの学習の基盤となる力である」と語っています。

ただ、その大切さを理解していても、先生方が日々の授業の中で扱うには、もう一つ越えなければならない壁があります。それは、教材を「探す」「選ぶ」「準備する」までの負担です。先生方の「困った」は、教材が存在しないことだけではありません。むしろ、今のクラスで扱うべきテーマを見つけ、学年や授業時間に合う形に選び、すぐ使える状態まで整える、その一連の手間こそが大きな負担になります。

だからこそ私たちは、教材そのものを並べて紹介するだけではなく、先生が必要な情報に短い導線でたどり着けるサポートを整えることを重視しています。「最近、写真の撮り方でトラブルがあった」「15分だけ使いたい」「初めて情報モラルの授業をする」。そうした具体的な場面から逆引きできることが、現場での使いやすさにつながります。

この考え方のもと、『GIGAワークブック for Teachers』では、学年や教科、トラブル事例、授業時間などから、授業で扱うテーマや関連情報を探せるようにしています。教材はあくまで目的ではなく、先生方が“今、必要な授業”にたどり着くための手段です。

また、GIGAスクール構想によって1人1台端末が普及した今、授業の形も一つではありません。グループワークで話し合いながら考える場面もあれば、児童・生徒が端末を使って自分のペースで確認する場面もあります。2026年度版GIGAワークブックのアップデートでは、こうした現場の実態に寄り添いながら、先生方が状況に応じて扱いやすい形を選べるようにすることを目指しています。

大切なのは、「この教材を使ってください」と一方的に届けることではなく、先生方が目の前の子どもたちの状況に合わせて、必要なテーマへすばやくアクセスできることです。闇バイトへの加担防止やSNSでの誹謗中傷リスクなど、今の子どもたちが直面しやすい課題も、単に知識として伝えるのではなく、「自分だったらどう判断するか」を考える授業につなげられるようにしていく。そのための入口として、以下のサポートサイトをご用意しています。

授業用教材・サポートサイト

08. AI時代の到来。さらに高まる「情報モラル」の重要性

そして今、教育現場には「生成AI」という全く新しい波が押し寄せています。

AI時代が本格化していくこれからの社会において、情報モラル教育の需要はかつてないほど高まり、決して避けては通れない最重要テーマになっていくでしょう。昨日までの常識が明日には通用しなくなる世界の中で、子どもたちが学ぶべき内容も猛スピードでアップデートし続けていかなければなりません。

だからこそ、塩田先生のおっしゃる「学習の基盤となる力」を育み、どんな新しいテーマにも対応できる「型」を持った教材や、自主学習型のコンテンツが、先生方の授業に貴重な“余白”を生み出すための大きな力になると確信しています。

おわりに

情報モラルという「正解のない教科」を、多忙を極める現場で教えなければならない先生方。そのプレッシャーとご苦労は、計り知れません。

一方で、私たちがこの取り組みを続けている理由は、先生方の負担を軽くすることだけが目的ではありません。先生方を支えることは、あくまで子どもたちの学びと安全を支えるための手段です。その先にいる子どもたちが、ネット社会の中で自分を守り、相手を傷つけず、必要なときに正しく助けを求められる力を身につけてほしい。そこにこそ、この活動のゴールがあります。

インターネットを推進し、ネットサービスを社会に届けてきた企業として、私たちには、便利さだけでなく、その使い方や向き合い方についても社会とともに考え続ける責任があると感じています。これは一つの会社だけの話ではなく、子どもたちが安心してデジタル社会を生きていけるようにするための、社会全体で向き合うべき課題です。

だからこそ、学校や先生方だけでこの課題を抱え込むのではなく、教育委員会、ご家庭、企業、研究機関など、それぞれの立場から知見や仕組みを持ち寄っていくことが大切だと考えています。私たちもその一員として、未来の子どもたちに向けて、少しでもお役に立てることを一つずつ積み重ねていきたいと思っています。

子どもたちがネット社会という予測不能な海に漕ぎ出すとき、ただ危険を避けるだけでなく、自分で考え、判断し、よりよく使っていく力をどう育てていくか。先生方の力強い伴走者でありながら、その先にいる子どもたちの可能性を支える存在であれるよう、これからも現場の声に耳を傾け、「本当に使えるサポート」を模索し続けていきます。

文:LINEヤフー みらいプロジェクト事務局