コラム

先生より、生徒のほうがITに詳しい。では、何を教える?― 校内のスキル差から考える、情報教育の最初の一歩

2026年10月15日

対象:教育関係者向け
教材:GIGAワークブック


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生成AIを示す抽象的なモチーフを背景に、ノートPCを前に考えながら学ぶ生徒

生徒が、先生の知らないアプリを使っている。端末の設定も、画像や動画の編集も、迷いなく進めていく。

一方で、職員室を見渡すと、端末や新しいサービスへの向き合い方は先生によってさまざまです。相談を受けるのは、いつも同じ先生。自分も比較的得意なほうだから、できる範囲では支えたい。でも、すべてを引き受け続けるのは難しい——。

そんな状況に、心当たりのある方もいるかもしれません。

先生と生徒のITスキルに差があることは、いまや特別な話ではありません。では、生徒のほうが操作に詳しい教室で、学校は何を教えればよいのでしょうか。

答えは、先生があらゆる技術を覚え、生徒より詳しくなることではなさそうです。考えたいのは、変化する情報環境の中で、子どもたちにどのような力を育みたいのか、ということです。

01
「ITが得意」の中身は、変わり続ける
02
先生が生徒より詳しくなくても、できることがある
03
学校で、どこまで教えるべきなのか
04
「得意」の違いを、学びの入口にする
05
まず、どこから始める?
06
「誰が一番詳しいか」から、「何を育みたいか」へ

01. 「ITが得意」の中身は、変わり続ける

 

端末を使える。文字入力が速い。必要な情報を検索できる。写真や動画を編集できる。SNSやクラウドサービスを使って人と協働できる。「ITが得意」という言葉には、いくつもの力が含まれています。

つまり、「得意か、苦手か」は一つの物差しだけでは測れません。操作には慣れていても、情報の確かさや相手への影響を考えることには、別の経験が必要です。

しかも、求められる力は一定ではありません。新しいサービスが登場すれば、便利な使い方とともに、新しいリスクや迷いも生まれます。操作を覚えるだけでなく、情報を確かめること、相手への影響を考えること、自分の利用を説明することの重要性も増しています。

その変化がいま、とりわけ大きく表れているのが生成AIです。生成AIはITスキルのすべてではありませんが、検索、文章作成、相談、画像や音楽の制作など、これまで別々だった活動に入り込み始めています。

東京都が都内公立学校の児童・生徒を対象に行った調査では、自宅でインターネットを使って学習する際に生成AIを使ったことがある割合は、2024年度の16.9%から2025年度には38.0%へ増えました。有効回答数は11,999人です。(※1)

ここから見えるのは、単に「AIを使う子が増えた」ということだけではありません。子どもたちの調べ方、考え方、つくり方を支える情報環境そのものが、短い期間で変化しているということです。変化は大人の生活や仕事にも起きています。

生成AIを取り上げるのは、情報教育をAI教育だけに置き換えるためではありません。「操作できる」と「適切に使える」は同じではない——。生成AIによって見えやすくなったこの課題は、検索、SNS、オンラインでの共同作業、画像や動画の共有など、ほかの情報技術にも共通しています。

02. 先生が生徒より詳しくなくても、できることがある

先生がタブレットを持つ生徒たちに問いかけ、生徒が考えたり意見を交わしたりしながら学ぶ教室のイラスト。

ただ、情報教育が大切になるほど、「先生も最新のサービスを使いこなさなければ」と感じてしまうかもしれません。

けれども、生徒が操作を知っていることと、その使い方を適切に判断できることは、同じではありません。

たとえば、検索結果の上位にある情報なら、そのまま信じてよいのでしょうか。誰かの写真や文章を使うとき、どこまでなら問題がないのでしょうか。便利なアプリへ渡したデータは、どのように扱われるのでしょうか。生成AIが出した回答は、何を見て確かめればよいのでしょうか。

こうした問いには、アプリの操作方法だけでは答えられません。

子どもの発達段階を見ること。安心して意見を出せる場をつくること。異なる考えをつなぐこと。安全や権利について立ち止まるきっかけをつくること。そして、自分の判断を振り返らせること。

これらは、学校だからこそできることです。

先生の役割は、すべてのボタンの場所を教えることではなく、子どもたちが技術との関わり方を考えるための問いをつくること、と捉えることもできます。

03. 学校で、どこまで教えるべきなのか

3人の先生がノートPCや教材、資料を囲み、生成AIや情報モラルなどの情報教育について話し合うイラスト。

ここで、現場にはもう一つの切実な問いがあります。

情報技術について、学校はどこまで教えるべきなのでしょうか。

新しいサービスの機能や操作を、そのつどすべて教えることはできません。学校が利用を認めるか、課題でどこまで使ってよいか、トラブルが起きたときにどう対応するか。技術が変わるたびに、判断に迷う場面も生まれます。

だからこそ、個別のツールを網羅することより、道具が変わっても使える判断の軸を育てることが大切になります。

何のために使うのか。情報は信頼できるか。個人情報や著作権は守られているか。相手や社会にどのような影響があるか。自分の使い方を説明できるか。そして、迷ったときに誰かへ相談できるか。

こうした力は、特定のアプリの使い方にとどまりません。国語の調べ学習にも、社会の資料の読み取りにも、学級活動でのSNSの話し合いにもつながります。「ここからここまでが情報教育」と線を引くより、日々の教育活動の中で繰り返し扱うものと考えたほうが、現場にはなじみやすいのかもしれません。

もちろん、その範囲や留意点を一人の先生だけで決める必要はありません。

文部科学省は「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」で、学校現場が押さえておくべき基本的な考え方や、利用場面・利用者に応じた留意点を示しています。オンライン研修のアーカイブや、パイロット校の実践例も公開しています。(※2)

次期学習指導要領に向けた議論でも、情報教育を拡充する案が示されています。報道によれば、小学校では「情報の領域」、中学校では「情報・技術科」を新設し、情報モラルやメディアリテラシーなどをより体系的に扱うことが検討されています。(※3)

自治体や教育委員会でも、地域や学校の実情に応じて、教材の提供、情報共有、教員研修などに取り組む例が見られます。たとえば東京都教育委員会は、情報モラルと情報活用を一緒に学べる「GIGAワークブックとうきょう」(※4)に加え、生成AIについて学ぶ教材、動画、疑似体験ツール、教員向け資料などを提供しています。(※5)

ガイドラインや教材が、そのまますべての学校の答えになるわけではありません。それでも、学校がゼロから正解をつくらずに済むための土台にはなります。国や教育委員会が示す共通の考え方を手がかりに、目の前の生徒や授業に合わせて問いへ置き換えていく。そこに、学校や先生の大切な役割があります。

学校が教えるべきなのは、次々に登場する技術のすべてではなく、技術とどう向き合い、どう判断するか。そのための共通言語を、校内につくっていくことではないでしょうか。

04. 「得意」の違いを、学びの入口にする

ITが得意な先生の知識や経験は、学校にとって大切な力です。生徒のほうが新しいサービスをよく知っているなら、その知識から学ぶこともできます。先生同士が、同じ水準まで一律にスキルアップしなければならないわけでもありません。

違いがあるからこそ、対話を始めることができます。

生徒が便利な方法を見つけたときには、「どう操作したの?」だけで終えず、こんな問いを添えてみてはどうでしょうか。

・どうして、その方法を選んだの?

・出てきた情報が正しいか、何を見て確かめた?

・その画像や文章を使う前に、気をつけたことはある?

・もし相手の立場だったら、どう感じるだろう?

・AIを使った部分と、自分で考えた部分をどう説明する?

操作のコツを教えてもらうことから始めても、問いを重ねることで、情報の信頼性、権利、相手への影響、責任へと学びを広げられます。

得意な人がいることを、特定の誰かの負担にするのではなく、学校の中にある知識や経験を持ち寄るきっかけにする。そんな捉え方なら、それぞれの得意さを生かしながら、学校として情報教育を考えていけるのではないでしょうか。

05. まず、どこから始める?

女性の先生がノートPCを前に、授業での問いかけ、教材の活用、生徒との対話、同僚との情報共有など、情報教育の始め方を考えるイラスト。

学校全体の方針を一度に整えなくても、始められることはあります。次のうち、いまの自分や学校に合うものを一つ選んでみるのはどうでしょう。

1) 次の授業で、問いを一つ加える
調べ学習のあとに「その情報を信頼できると考えた理由は?」と聞く。生成AIを使う場面なら「回答を確かめるには、何を見ればよい?」と問いかける。教科の学びを変えずに、情報との向き合い方を考える時間をつくれます。


2) 15分の教材を、一つ試してみる
情報モラルの授業をゼロから設計するのが難しい場合は、既存教材を使う方法があります。東京都教育委員会の「GIGAワークブックとうきょう」には15分版と45分版があり、活用動画や教員向けガイドも用意されています。(※4)

まずは所属する自治体や教育委員会のWebサイトを確認し、利用できる教材や研修のアーカイブ、地域の方針を探してみるのも一つです。

LINEヤフー みらいプロジェクトでも、「GIGAワークブック」を無償で提供しています。中学生・高校生向けの教材には、情報の信頼性やコミュニケーション、リスクとの向き合い方などを考える題材があります。15分の短時間テーマもあるため、一つのテーマから始められます。(※6)


3) 生徒に、判断の過程を聞いてみる
詳しい生徒に操作を説明してもらうだけでなく、「どこで知ったのか」「選ぶときに迷わなかったか」「どんなリスクを考えたか」まで聞いてみます。先生が知らない使い方を知る機会になると同時に、生徒自身の振り返りにもなります。


4) 同僚と、困りごとを一つ共有する
「生成AIを使った宿題を、どう見ればよいか迷った」「写真の共有範囲が気になった」。まずは具体的な一場面を持ち寄ります。得意・不得意を測る話ではなく、学校としてどんな判断を大切にしたいかを考える入口になります。


5) 自校で育てたい力を、一つ選ぶ
「正しさを確かめる」「相手への影響を想像する」「自分の利用を説明する」など、目の前の生徒にいま育てたい力を一つ言葉にします。使う教材やツールは、そのあとに選んでも遅くありません。

06. 「誰が一番詳しいか」から、「何を育みたいか」へ

新しい技術が登場するたびに、先生が生徒より先にすべてを習得することは難しいでしょう。けれども、技術について一緒に立ち止まり、目的や影響を考える場をつくることはできます。

大切なのは、誰が一番詳しいかではありません。

この技術を使って、子どもたちに何ができるようになってほしいのか。どのような場面で立ち止まり、何を確かめ、どう判断できるようになってほしいのか。

その問いを学校の中で共有することが、情報教育の最初の一歩になるはずです。

一年後には、子どもたちを取り巻く情報環境は、いまよりさらに変わっているでしょう。「技術の更新が落ち着いたら考えよう」と待っていても、変化が落ち着く日は、なかなか来ないのかもしれません。その間にも、子どもたちは新しい技術に触れ、自分なりの判断を重ねていきます。

だからといって、大きな改革をすぐに始める必要はありません。ただ、何もしないまま待ち続ければ、学校と子どもたちの日常との距離は、少しずつ広がってしまいます。

明日の授業で、一つ問いを加える。15分の教材を試す。隣の先生と、最近迷ったことを話してみる。

始め方は、一つでなくてよいのだと思います。小さくても、いま始めること。それが、変化から取り残されないための一歩になります。

文:LINEヤフー みらいプロジェクト事務局